TERRACYCLE NEWS

ELIMINATING THE IDEA OF WASTE®

スタートアップスinUSA(4) 生きがいはカネより世直し 台頭する新世代起業家

Include Japan テラサイクル
二律背反するはずの「利潤の追求」と「社会的貢献」を両立しようと試みるのがソーシャル・アントレプレナー(社会的起業家)だ。現在の若者世代は、多感な時期に「100年に1度」といわれた2008年の金融危機を経験。マネーゲームへの憧れは希薄だ。ビジネスを通じて、世の中を良くしたい――。儲(もう)けるだけに重きをおかない新世代の挑戦が始まっている。 「リサイクルできないと信じられているモノをリサイクルするのが俺たちの仕事」 たくさんのボトルを背に、トム・ザッキー(32)はこう話す。ここはバーではない。ボトルはボトルでも使用済みペットボトルに仕切られた彼の"重役室"だ。名刺をもらおうとするとスタンプを取りだし、取材ノートに押してくれた。なるほど紙の節約になる。

良い社会を作るビジネスでなければ無意味だ

ザッキーが創業したテラサイクル(ニュージャージー州トレントン)が目指すのは「ゴミ・ゼロ」の社会だ。ゴミの資源化は現状では、アルミやガラスなどの一部の素材だけで、大半が埋め立て処分や焼却処理されている。ザッキーはこうしたリサイクル不可ゴミの再生に情熱を燃やす。    
テラサイクルのトム・ザッキーCEOの部屋は廃ペットボトルで仕切られている
    テラサイクルの手にかかれば、回収された大量のたばこフィルターはプラスチック製の荷役台(パレット)に、型番落ちのアウトドア用テントはバッグや洋服に生まれ変わる。 13年の売上高は1870万ドル(約19億円)。世界24カ国でリサイクル事業を手掛ける規模に成長したが道のりは平たんではなかった。 創業は13年前。ここから車で約20分のプリンストン大学で産声を上げた。同大学1年生だったザッキーは、生ごみをミミズに処理させると良質な堆肥ができることを知る。大学のカフェテリアの残飯をもらってミミズ堆肥の大量生産に成功する。家庭菜園用に購入してくれる顧客もついた。「ゴミがお金に変わるなんて」。ザッキーはゴミの潜在力に目覚めた。    
ペットボトルのゴミで飾られたテラサイクルのオフィス。机も椅子もすべて廃品だ
    「生ゴミを使うのはやめたらどうか」。創業2年目にベンチャーキャピタル(VC)が主催する事業計画コンテストに応募し優勝するが、調達に意外にコストがかかる残飯の利用をあきらめるように指示される。「良い社会を作るビジネスでなければ意味がない。そこを譲るわけにはいかない」。ザッキーは100万ドルの賞金を諦めた。 手元資金は現金500ドルのみ。液肥を販売するための容器が買えず、捨てられたペットボトルを使った。「投資を受けられなかったおかげで、中身も入れ物も100%再生品という商品になった。困難な時こそ、いいアイデアが浮かぶ」とザッキーは笑う。

モノを持つことはかっこ悪い

「今どきバーで『車15台、ジェット機も持っている』なんて口説いても女性にもてないよ」。1950年代以降、米国を席巻してきた大量消費の文化に変化が出てきているという。「僕たちはモノをたくさん持っていることをかっこ悪いと感じる世代なんだ」    
スーパーペデストリアンのビダーマンCEOは、HV電動自転車の技術を開発
    VCのソーシャルビジネスに対する意識も変わってきた。ツイッターへの支援で知られるVC、スパーク・キャピタルが210万ドルの投資を決めたのが環境系スタートアップのスーパーペデストリアン(ボストン)だ。 「都会の交通手段を一変させたい」。創業者のアセフ・ビダーマン(36)が開発したのは、手持ちの自転車の後輪を取り換えるだけで電動自転車に変身する「コペンハーゲン・ウィール」。ブレーキをかけた時に発生する回生電力を蓄電し動力源に変える。後輪の軸についた装置には蓄電池と速度調整や勾配探知、温度計など12種類のセンサーが詰まっている。 センサーは無線でスマートフォン(スマホ)と接続、電動アシストの度合いなどを制御する。昨年12月に先行予約を開始したところ1カ月で1500以上の予約を獲得。699ドルと米欧の電動自転車の3分の1程度の価格が人気を呼ぶ。 ビダーマンは米マサチューセッツ工科大学(MIT)の研究所副所長からの起業。イスラエル生まれで、兵役を終えた24歳でMITで学びたいと渡米した。研究成果として生まれた1つが電動自転車だった。「どこで買えるの?」「私もほしい」――。お茶の間から続々と舞い込むメールがビダーマンを動かした。 社会にいい影響を与えた起業家として歴史に名前を残したい。若い世代は、起業に新しい風をもたらしている。=敬称略

幸せは長続きしないと考えるミレニアル世代

米企業の間で「Bコーポレーション(社会貢献型企業)」認証を取得する動きが広がっている。Bはベネフィット(利益)の略で、認定の条件は社員、環境、地元に利益をもたらす企業であること。米国で「ミレニアル世代(1980年以降生まれ)」と呼ばれる層は、ほかの世代よりも社会意識が高く、株主優先を貫いてきた米企業もこうした風潮を無視できなくなっている。 Bコーポレーション認証は、非営利団体「Bラボ」(ペンシルベニア州)が2007年から独自の基準を設定して行っている。売上高に応じて500~2万5000ドルの年間費が必要だが、今までに全米で700社以上が認定を受けた。アイスクリーム大手ベン・アンド・ジェリーズや自然派洗剤メーカーのメソッド・プロダクツ、アウトドア衣料品のパタゴニアなどだ。 現在20~30歳代となったミレニアル世代は、思春期に01年の連続多発テロを体験、就職では08年の金融危機後の不況で苦労した。Bラボの広報担当者ケイティー・カー氏は「個人の幸せを追求した揚げ句、社会全体が衰退していったら、その幸せは長続きしないと体感している世代」と語る。 値段が少し高くても、オーガニックやフェアトレード(途上国の生産者との適正な取引)の製品を選ぶミレニアル世代は、経営理念に賛同できる企業で働きたがる。 こうした風潮を受けて、かつてはウォール街で働く人材の養成校と見られてきた米名門大学のビジネススクールが、社会貢献型企業への就職希望者に学費の一部を免除するなどの取り組みを始めている。企業が高給だけで優秀な人材を確保できた環境は変わりつつある。 [日経産業新聞から転載、日経電子版2014年4月4日付]